常に緊張にさらされていると『もう安穏とした生活に戻れないのか』と打ち拉がれます
昔々、三共製薬のリゲインのCMで時任三郎さん扮する牛若丸三郎太が「24時間戦えますか」と勇ましく歌っていました。よくネタになったので、覚えている方も多いと思います。
世間では、昼も夜もなく働いている人たちがいます。
残業などしたこともない人たちがいる一方で、家にも帰れず家族の顔を見ることができない人たちがたくさんいるのです。
その様相を喩えるなら、少し前に流行った「24(Twenty Four)」でしょうか。
劇中をそのまま再現したかのような、息もつかせぬ展開に翻弄されている人たちは、今こうしている間もきっと見えない何かと闘っています。
とあるサービスイン直前の風景
「あれ、まだ居たんですか?」
「まあね」
「障害って収束したんじゃないですか?」
「明日までに類似見直ししろ、だとさ」
「それで、類似あったんですか?」
「週末に同じ障害が起きそうだ。他にあと8箇所あった。コピペしてテストしてないんだろう、大体テストもロクにやってないようなモノが本番環境にあること自体、おかしいんだ。しかもこれは、例のシステムへ直結するヤツだからインパクトでかいぞ」
「丸一日しかないですね」
「今から報告書作って承認もらえば間に合うか」
「黒江さん呼びます?」
「もう電話した。そろそろセンターに着くころだ」
「センターに行ったんですか?」
「ああ、あっちのほうが色々できるからな。もしもの場合は、黒江がマスターアーカイブを直接触る」
「そんな超法規的措置って、ジャック・バウアーみたいになってますよ」
「笑えん冗談だ。今回の機能、あの外注先が仕様変更のときに弄ってるんだ。全然当時の要求仕様と関係ないところまで変わってるフシがある」
「えっ、スタークウッド・ソフトですか」
「そうだ、あのとき保慈須常務が競合会社との癒着を疑われて更迭されただろ。あれ、多分これと関係あるな。ちょっと待て、戸仁井、これを見てみろ」
「何か変ですね、何でこんなところで日付拾って…あっ」
「くそぉっ、バックドアだ」
「明後日サービスインの機能、全部ヤられてますね、きっと」
「構成管理にも内通者が居たんだ。戸仁井、このプログラムがリリースされた日の対応者を洗っておいてくれ」
「わかりました。バックアップサポートに織弖賀たちを招集しときます。でもどうして今頃になって…」
「ヤツら最初からこれを狙ってたんだ。あの障害は偶然だったに過ぎん。一部上場直後の新サービスだろ、鳴り物入りの新商品がシステムトラブルでコケてみろ、どうなるか火を見るより明らかだろう」
「見つけられて不幸中の幸いってやつですか」
「まだだ、問題が解決したわけじゃない。黒江、俺だ。センターに着いたら、すぐにマスターアーカイブとマスタージョブネットを封鎖しろ、説明している時間がない。状況はメールさせるからそれを見てくれ、頼む」
「センター長と連絡つきました。全面協力してくれるそうです。それから構成管理は樹馬さんでした。今日来てますから、適当な理由つけてこっちに呼んでます」
「ありがとう、彼を拘束して尋問しよう。もしかすると変更管理台帳に載ってない機能もヤられている可能性がある。テストのエビデンスもきっと偽物だろう、織弖賀が来たら突合させてくれ」
「了解です」
「よし、次は役員だ。それから戸仁井、あとで瑠根にも連絡をとってくれ」
(幹部連中が出てくるまであと二時間、今日も長い一日になりそうだ)
現場は大変なことになっていますが、新サービスは無事に稼働するのでしょうか。
そして彼らは無事に帰ることができるでしょうか。
シーズン2に続きません。
Written by Interlude.